【コラム】カクタル社長のつれづれ日記 第5回
広瀬 光哉( 株式会社カクタル 代表取締役社長 )
2022年3月1日(火)
「さあ今日から営業だ!」の第一歩は不安だらけ
最近は、営業力強化・営業教育に関するご相談が多く、営業の成長に関わる課題を抱えている企業が多いことを痛感しています。そこで、自分の体験や考え方を含めて、「営業力とは何か」について語っていきたいと思います。営業と言っても、若手、3〜4年の経験者、ベテラン、中間管理職、大きな組織の営業責任者と、それぞれの立場によって気付きが変わってきます。
そこで今回のコラムでは、私が初めて営業になった時に気付いたことについて書いていきたいと思います。
私は、最初からの営業のプロはいないし、口が上手いから優秀な営業になれるわけでもなく、営業に向いている、向いてないも本人の主観的な感覚であって、いい営業になるかどうかとは全く関係が無いと思っています。
私は大学を出て、いきなり飛び込み営業を始めました。学生時代は恵まれていたのだろうと思います。毎日スキー部の陸上トレーニング、夏休み・冬休みはスキー合宿で、ほとんどバイトの経験もなく、ましてや知らない人に物を売るなんて考えたこともないまま、会社に入りました。最初に研修期間があり、商品知識などは学びました。しかし、「本当に知らない会社に飛び込んで、呼ばれてもいないのに自分の商品を売り込んで、それを買ってもらうことが可能なんだろうか?」と、不安でいっぱいでした。
入社2カ月後に支店に配属され、いよいよ営業開始です。運悪く、配属先が進出したばかりの田舎地域の新店舗で、会社のネームバリューは全くなく、かつ既存顧客も全くいない中でのスタートでした。大学を卒業したばかりの新人が、新規オンリー地域の開拓を任されたのです。営業範囲も広大だったので、先輩社員とペアで営業するという実践教育もありませんでした。
新規営業件数が増えると、ビジネスの嗅覚が育つ
営業の技術もトークのスキルも無い中で始めたのは、飛び込み営業に行く件数を増やすことでした。最初は、ともかく多くの会社を訪ねることに専念しました。研修中にはいろいろな座学やロールプレイをやりましたが、ほとんど役に立たないと感じて不安でした。それでも、日々汗をかきながら体感したことは、門前払いを受け続ける中で、不思議と20件に1件くらいは立ち話ができ、100件に1件ぐらいは「検討中」にぶつかるものだとわかったことです。逆に言えば、さぼったり、営業活動への努力を怠ったりしたら、見込み客にぶつかることは皆無だということです。
日々の営業努力の繰り返しの中で、門前払いから社内に入りこむ「受付突破技術」が身に付きました。相手が断っていても実は裏では検討している空気だとか、断り方の温度感がわかるようになりました。回る件数が増えるに従って、知らない会社の空間の中で、「検討してみようかな」という微妙な空気の変化を察知できるようになりました。
こうした体験から、営業の基礎作りで一番重要なのは、営業件数を増やすことだと思います。全く知らない会社に営業に行くのは怖いものですが、多くの会社を訪問することでその恐怖心を克服でき、断られても繰り返し営業を続ける精神力と体力が養われます。さらに、訪問先の企業に入った瞬間に、ビジネスになるかならないかの香りをかぎわける嗅覚が育成されます。
飛び込み活動は非常につらいので、上司は、新入社員に将来のビジョンをしっかりと語り、夢も持ってもらうことが必要です。その上で、「営業件数がアップすると営業力が伸びること」を伝え、ある期間、新規開拓活動を経験させることが絶対必要だと思います。その経験がビジネスの嗅覚を養い、将来に向けての大きな財産となります。
もちろん、これは一昔前の話で、セキュリティ強化・コロナ対策強化で飛び込み営業やリアル営業ができなくなっていることは承知しています。これからは新しいスタイルの営業手法が必要になっていることも重々わかった上で、基本中の基本と思うことを書いています。営業の第一歩は、次の段階の営業になるための精神力と体力、体で覚えるビジネスの嗅覚を養うことだと思います。
次の第6回コラムでは、営業の人間性の出し方、他の営業に勝つ第一印象の工夫について書きたいと思います。