【コラム】製造業の社長に伝えたい! 第8回
酒田 裕之( 生産管理コンシェルジュ )
2022年5月16日(月)
データ移行には時間と手間がかかる
旧システムから新システムに移行する際に、データが移行できるかどうかは大きな課題です。各種マスターデータ、過去の取引データ、実績データなどを移行させることを考えてみましょう。
まず、マスターデータです。得意先、仕入先、製品マスターなどは、旧システムからデータをExcel等の形式に出力して、新システムに取り込めるケースが多いです。
しかし、製造にかかわるマスター、例えば、構成マスター、工程工順マスターなどは、管理粒度(細かさ)を見直すケースが多かったり、新旧システムでマスターの構造が違ったりすることが多いので、簡単には移行できません。
さらに、取引データや実績データは、それらのデータを構成する各項目が、新旧各システムの作りに依存しているため、こちらも簡単には移行できません。受注データを例にしてみると、旧システムでは、確定受注や内示受注などの受注区分がなく、新システムではその区分が存在する場合は、旧データのすべてに、確定受注、内示受注の区分を付加する必要があります。
システム入れ替えとともに、製品や部品、材料、仕掛品マスターのコード体系を見直す場合もあるでしょう。この場合は、受注データ内の各マスターのコードは、旧コードを新コードに変換しなければなりません。
このように、データごとに新旧システムの項目を比較して、新データが生成できる筋道を作る必要があります。
方針をしっかり決めてデータ移行の準備を
データを移行しないと業務がまわせないと判断した場合は、それなりに費用と手間はかかりますが、変換プログラムを作成する必要があります。
逃げ道として、合計値(売掛残、買掛残、前月在庫数、製造実績数等)だけ新システムに移行して、明細データは移行せずに必要な時に参照できればよいという場合は、別の方法があります。
例えば、データを参照するだけのプログラムを新システムの環境に用意するとか、旧システムが動く環境を一部残しておく、などです。
いずれにしても、データ移行は大仕事です。工数や費用と効果を勘案して、どのようにデータ移行を進めるか、しっかり方針を決めましょう。
併行稼働のやり方は2つ
次に、併行稼働のやり方ですが、大きく分けて2つあります。
一つは、1ケ月なら1ケ月、すべての新旧システムを動かして、新旧の整合性がとれたら本稼働に移行にするやり方です。
もう一つは、特定の得意先や製品に絞るなど、併行範囲を絞るやり方です。
この「部分併行」は、1つ目のやり方に比べて併行作業の範囲が狭く、現場の負荷が下げられるという利点があります。しかし、検証しきれない範囲も残るため、不具合が内在しているリスクがあり、どちらのやり方にも一長一短があります。
また、新旧の管理範囲や管理粒度が違う場合は、新システムの検証データを手作業で用意しなければならないケースがあり、相応の準備が必要となります。
本稼働切り替え時は、現場のフォローを
併行稼働から本稼働へ切り替えるかどうかは、「本稼働を判定する会議」を実施して判断するのが一般的です。今まで業務を回してきた旧システムを止めることになるため、慎重な判断が必要です。
本稼働で問題になるのは、大きく2点です。
1点目は、前述したように、データが新旧システムで合致しているかという点。
もう1点は、新システムへの習熟度の問題です。
旧システムより新システムのほうが管理粒度が細かくなるケースが多いため、入力項目が増え、「入力しきれない」ということが起こります。
操作に慣れていないことも重なり、習熟度が上がらず、「なかなか新システムに移行できない」というケースが発生します。
また、旧システムではシステムとExcelを組み合わせして回してきた業務を、新システムではシステムに一本化する場合などは、「Excelがなかなかやめられない」など、運用面の移行がうまくいかないケースも見かけます。これは生産計画をシステムに組み込む際などに発生することが多いようです。
ここは正念場です。プロジェクトの事務局は現場に寄り添い、現場の課題に対して細心の注意を払いましょう。そして、最大のフォローに注力したいところです。