【コラム】三月ウサギのDX談義 第11回
2025年7月7日

落し物検索アプリで、「返却率」が3倍に

先日、朝日新聞のネットニュースを見ていたら、東京都多摩市に本社を置く京王電鉄が、乗客の落し物を探すアプリを導入したことで、落し物の「返却率」が従来の3倍になったという記事がありました。

2023年、京王電鉄は、株式会社Findと連携して開発した落し物検索アプリ「落し物クラウドFind」を、導入。乗客はメッセージアプリ「LINE」を使って落し物の問い合わせができるようになりました。乗客が、「LINE」に落し物の特徴を書き込んだり、画像を送信したりすると、人工知能(AI)が落し物のデータベース内を検索して、落し物情報と照合し、該当するものを絞り込むので、落し物が見つかりやすくなりました。

これまでは、電車内で忘れ物や落し物をしたことに気づいた人は最寄り駅に電話し、係員に落とした物や落とした状況ついて説明し、遺失物が集まる駅に問い合わせをして探してもらうなど、時間と労力がかかりました。大事なものを忘れた時は、「青くなって見つかるのを祈る」という精神的ストレスも多大なものでした。こうした問い合わせのプロセスをアプリが担ってくれるので、駅員は電話対応の時間が減り、業務の効率化が図れています。

AIは短時間で画像の照合ができるので、落し物が持ち主の元に返される「返却率」も、従来の1割程度から、3倍の3割に上昇したそうです。

植物の名前を見つけるのに便利な画像検索

三月ウサギは散歩が好きで、毎日あちこちを飛び跳ねては、変わった形の花や葉を見つけると写真を撮って、自分のホームページ(HP)にアップしています。そして、撮った写真の植物の名前等を知るために、Googleの画像検索を使います。

ここで難しいのは、撮った写真と似た植物だろうと思われる画像がたくさん検索されて出てくるので、その中から同じ植物の画像を見つけることです。植物学者の目を持って、花びらの数や形、葉の付き方など、特徴的な部分を照合して、同じ植物だろうと当たりをつけてから、その画像の詳細をチェックし、確認作業をしてからHPの文章を書きます。忘れ物検索でも、アプリが「これだろう」と出してきた候補が、乗客が探している忘れ物かどうかをチェックして特定する作業には時間がかかることが想像できます。

植物の名前検索については、スマホで写真を撮るだけで植物の名前や詳細を検索してくれるアプリが複数あるので、今後も、画像検索の時間が短縮され、画像検索の精度がアップしたアプリが出てくるだろうと思います。

製造業のDXで注目を集めている、AI図面検索

どのような職種の企業でも、人材不足や属人化の課題を抱え、AIやIoTを導入するDXを進めています。製造業の場合は、企業の資産である過去図面の活用が課題となっていて、図面のデータベース化が進められています。ここで最近、注目を集めているのがAIによる図面検索システムです。

設計業務においては、以前作成した類似製品や類似部品の設計図、加工図等が見つかれば、その時の協力会社からの見積や社内であれば作業実績などの原価が確認できるので、新規の仕事の見積査定、社内原価の査定が的確にできるようになります。

これらは経験豊富なベテランでないとできない業務なので、技術伝承が課題である製造業にとっては、効果的な対応策となります。

もちろん、膨大な数の図面をシステム内に取り込んでデータベース化するにはそれなりの時間と労力が必要ですが、それはどのようなシステムを使うにしても、避けては通れない道筋です。 そして、図面検索においては、出てきた図面が、求めている図面かどうかを判断するためには、技術者・職人などのチェックが必要です。

DX、AIの進化のニュースを聞くたびに、その根底にあって重要なのは「利用者の知識」「正誤を判断するプロの目」だと感じることが多い三月ウサギは、こうした進化が、効率化による技術の衰退ではなく、蓄積された技術の継承につながる道を進んでいってほしいと思っています。

太陽のエネルギーが感じられる暑い夏がやってきました。ミントの効いたカクテルで、ほっと落ち着くひとときを楽しみしょう。