【コラム】三月ウサギのDX談義 第8回
2024年12月2日

レストランで、テーブル上のQRコードを示される

2、3年前でしょうか、コロナ禍の中、久しぶりに一人で近所のカフェ・レストランに行きました。入り口で「携帯電話はお持ちですか?」と聞かれ、「なぜ?」と尋ねると、「当店ではQRコードを読み取って、注文していただくことになっています」とのこと。言外に「その操作ができますか?」という意味が含まれているのがわかります。

スマホは持っている、QRコードの読み取りアプリも持っていて、使い方はわかる。しかし、それを使って店で注文したことはなく、どういうシステムかはわからない。「大丈夫だと思います」というと、「それでは、お好きな席へどうぞ」ということで、店内に案内されました。

この店は3階まである広い店です。席を選ぶとテーブルの上にQRコードの紙が置いてありました。店のスタッフの姿はありません。新型コロナ対策として、人との接触をなるべく減らしたいのでしょう。人手不足対策にもなりますね。しかし、注文に失敗したら、スタッフに助けてもらうために1階まで降りていかなくてはなりません。

「とりあえずトライ」ということで、QRコードを読み取ると店のメニューがスマホの中に取り込まれ、そのメニューを見ながら、注文したいものをクリックしていくシステムでした。タッチパネルを使って注文する居酒屋チェーンがありますが、個人のスマホがタッチパネルの端末の代わりになるというわけです。

紙のメニューの良さ、人と接触する良さを再認識

無事、注文は終えました。その時にまず感じたのは、紙のメニューの良さです。なぜなら、QRコードを読み取ってからメニューが出てくるまでに、けっこう時間がかかったからです。カラーの写真付きメニューなので、店のWi-Fiのスピードによって取り込み時間が違ってきます。さらに、画面をスクロールして頼みたいメニューを探すのが煩雑です。パッと開いて色々選べる紙のメニューの「視認性」の良さを再認識しました。

スタッフの姿を見るのは、注文したものを運んできた時だけです。ふだん特に話をするわけではなくても、「同じ人にお水を運んでもらい、注文の声をかけ、注文したものが運ばれてきた時になんとなく心を通わせる」という一連のやりとりがなくなると、馴染みのカフェに来たという温かい気持ちがなくなる気がしました。

当時は、こうしたQRコードの利用法は珍しいという印象でした。しかし、最近は喫茶店でもレストランでも「注文はQRコードで」と言う店が増えました。もちろん「メニューを見せて」と頼めば持ってきてくれますが、たいていは、一緒に行った友人がすっとスマホを取り出してメニューを読み込み、注文してくれます。

QRコードは日本企業の発明、コロナ禍で普及

こんなふうに日常生活に普及が進んでいるQRコードですが、発明したのは日本企業だそうです。そこで、ちょっとQRコードの歴史について調べてみました。

QRコードは、1994年に愛知の自動車部品メーカー「デンソー」が開発した2次元コードです。QRはQuick Responseの頭文字で、1970年代初頭に実用化されたバーコードに比べて読み込める情報量が多くて、高速で読み取りができるのが特徴です。

開発直後は、自動車部品業界の生産管理システムの効率化に使われ、その後、食品業界、薬品業界などの商品管理にも使われるようになりました。

QRコードが一般向けに広まるきっかけになったのは、2002年にQRコード読み取り機能搭載の携帯電話が発売されたことでした。現在ではスマホやカメラ付き携帯はQRコード対応になっていて、内蔵カメラで撮影してQRコードの情報を見ることができます。

用途としてはポスターや広告、新聞・雑誌記事や地図などの印刷媒体にQRコードを掲載して、詳細情報のある携帯サイトに誘導する、クーポン取得を促すなど、情報の追加に使われていました。三月ウサギは広告業界で仕事をしていますが、新聞広告にQRコードを掲載して付加価値をつけるのがはやった時期があります。

その後は、航空券、イベントやコンサートの入場券などに広く使われるようになりました。さらに、新型コロナ対策で美術展等のチケットが時間予約制になり、紙のチケットが敬遠されて、「スマホ内QRコード」のチケットが普及しました。

その後も非対面、非接触が歓迎される風潮は加速し、キャッシュレス決済も進んで、「QR決済サービス」も日常的に使われるようになました。

機械化、DX化の問題点

このように、QRコードという科学技術を駆使した機械化、DX化は、省力化、効率化につながり、人手不足や人件費高騰の対策としては有効でしょう。しかし、色々と弊害もあるような気がします。

例えば、QRコードで注文のカフェ・レストランの場合、一緒に働くスタッフ同士が接客や配膳のスキルを学び合う機会は減りますし、客の様子を見て何を求めているのかを察するというようなサービス精神も養われないでしょう。客の方も店の人と接する機会が減り、コミュニケーションの刺激が減ります。こうしたことが、将来、私たちにどの影響を及ぼすのかも気になります。

電子機器の扱いに慣れているかどうかで、利用者が選別されてしまうのではないか、というのも危惧する点です。情報機器の操作は生活の必須事項の一つなので、高齢、面倒、などの言い訳をせずに学ぶべきだと思いますが、操作ができない人がサービスに到達できる手段は用意すべきです。

もう一つ、使っている機械への信頼性の問題があります。スマホで見せる電子チケットの場合、スマホの電池切れ、故障、Wi-Fiの不備などの事態が考えられます。こうした場合に別の確認手段があるのかどうか、試したことはありませんが、紙のチケットよりも不安を感じます。

簡単、高速読み取りの利点で、浸透は進む

それでも、QRコードは今後もどんどん日常生活に浸透していくのだろうなと感じることがありました。先日、落語の独演会に行った時に、いつも紙で入っているアンケート用紙がなく、プログラムの裏に「アンケートはこちらへ」というQRコードが付いていたのです。年寄りの多い落語会で、終わった後に熱心にアンケートに答えるファンの姿を見ていたので、このファン層にもQRコードは有効と分析されているのだなと思いました。スマホをかざすだけで、それなりの量の情報がすぐに読み取れるという簡便さは、大きな利点なのでしょう。

おまけの情報ですが、「アンケート用紙についてくるミニ鉛筆の節約にもなるし」と思ったところで、あのミニ鉛筆の名前を調べました。クリップペンシル、スコア鉛筆というそうですよ。

猛暑を経験すると、最近の冷気も肌に心地よいですね。今夜は富士山を模した日本酒べースのカクテルで乾杯。