【コラム】カクタル社長のつれづれ日記 第10回(最終回)
広瀬 光哉( 株式会社カクタル 代表取締役社長 )
2022年8月3日(水)
経営者になったつもりで、強い収益意識を持つ
これまで、新人営業・ベテラン営業・新任管理職・中間管理職・大きな組織の管理職になったときの思い出、それぞれの立場で学んだこと、後輩に残しておきたいことなどを書いてきました。
今回は、いよいよ役員となって経営層の仲間入りをし、部門長、事業部長など、大きな母艦の長になったときのマネージメントについて書きたいと思います。
ここまでくると、会社の業績の一端を担う大きな責任を持つことになります。 目線は経営者に近づき、予算達成などが中心だった今までとは違い、特に強い収益意識が必要となってきます。
データを自分で管理し、中・長期戦略を明示する
それでは、任された大きな部門・事業部の組織の中でどうすれば大母艦を操りながら業績責任を果たし、重要な収益を上げていけるのでしょうか。
まず、会社に使われているという意識は捨て、経営者のつもりで収益意識をしっかり持つことです。前回も書きましたが、自分なりに工夫したデータ管理が必要です。会計上の財務試算表と同じように月次で売上・粗利・それぞれの伸長率を把握。それ以外に、経費・収益・3年、5年での成長率などのデータを項目・地区ごとに作り、自分の目で把握することです。
伸長がままならないときや目標に到達しない時は気持ちが暗くなりますが、簡単にV字回復できなくとも、問題点を把握し、対策を練り、正常化を確認できた時は、本当に達成感と充実感があります。
次に大事なのは、請け負った部門組織・事業部をどのような形にしたいのかを明示することです。大ベクトルで分かりやすく、短期・中期・長期戦略をしっかり出すことです。
短期の目先の業績目標だけなら、大きな組織を持った意味がありません。大きな母艦は、簡単に右だ、左だ、とは動きません。よって、特に中期・長期レンジでの着地目標・姿を明確に出し、単発でなく継続して旗振りすべきです。私は中期戦略では「全社No.1の収益部門にすること」、長期戦略では「日本一のSIerになること」をスローガンにして訴え続けました。
長期で見て効果が出る部分に力を注ぐ
では、大きな母艦を動かすには、どのような舵取りが必要でしょうか。前回、森と木の例えを出しましたが、木である短期戦略や短期の業績は部下の下部組織長に任せ、部門長・事業部長は森の部分に注力すべきだと思います。
森の部分とは、即お金にはならないが、長期で見たら必ず効果が出てくると思われる部分です。例えば、CSを上げるためのユーザー会や顧客満足度施策は準備に時間がかかり、各種の施策を実施したからといって短期的な業績には反映はしません。ただし、この施策を怠ると長い目で見て必ず業績低下に見舞われます。この部分は回復させるにも大変な労力が必要となります。会社のイメージ施策の一部にもなるので、人任せにせず自ら準備段階から関与すべきだと思います。
また、「日本一のSIerを目指す」と訴えたのであれば、現場がどんな競合先にも負けないツール・カタログ・プロモーションなどのアイデアを出し続けるべきです。絶対勝てる武器を現場に与えないで、もしくは敵に劣る武器しか持たせないで、「市場で勝て、頑張れ」と言うだけではリーダーとして失格です。
営業とサポート部隊が実行部隊とすると、プロモーション部隊もしくはマーケティング部隊は中長期戦略を立案・実行する重要な片腕の組織です。 即、売上に反映しにくく、お金をかけにくい部分ですが、ツール類・カタログ関連・有効なプロモーションアイデアを多く出し、現場感覚で企画立案できる組織をつくるべきです。
強力な営業力も非常に大事ですが、これからは頭脳・アイデアの部分が非常に大事な時代になっていくと思います。新たな人材としてデジタルマーケティングに詳しい人、AIに詳しい人をマーケティング部隊に加え、この部隊が中心となって、より高い生産性向上に挑戦を続けるべきです。
率先してユーザー訪問をすべき
本社や本部に入り、なかなか現場が見えにくい立場になったら、なおさら率先してユーザー訪問すべきです。突然行こうとすると現場に負担をかけるし、事前の準備で忖度もありえます。そうならないように、制度として定期的に全国のお客様を訪問できるスキームをつくるべきです。
お客様の声は神の声であり、いろいろなことを教えてもらえますし、気付きを与えていただけます。ユーザーの所に出向かないで机に座り続け、会議に参加し続けても、なんのアイデアも浮かばないでしょう。
悲しいかな、偉くなればなるほど、直接お客様に会う機会が減ります。 それを防ぐためにも、自然にお客様のところに行ける訪問制度を作って、大いにユーザー面談活動をすべきです。 私はそのような制度を作って、企業の大小に関わらず全国のお客様を数多く訪問して、本部役員としてご挨拶しました。
全国の営業や管理職と会食の機会を作ろう
全国・全拠点の営業や管理職と会食して、リアルな会話をすることも大事です。それぞれの地区・立場によってどのような苦労があって、それをどのように克服しているのか、本部・社に要望はないのか、本部・社の思いは伝わっているか、モチベーションは大丈夫か、などを自分の目で確かめられる制度も必要です。
現場が見えずに良いアイデアや施策、プロモーションは浮かびません。先ほどから「制度」と書いているのは、行き当たりばったりでは長続きしないからです。自ら制度化して、公平に継続して実施すべきです。
お客様を訪問し、多くの現場と会話を持つことにより、多くの気付きがあり、必要な教育・評価制度・人事施策などをタイムリーに実施できると思います。
ついでですが、会食場所にも気を使いましょう。一杯飲み屋のような誰でも行ける場所で会食をしても、全く喜ばれません。それなりにステータスを感じる場所で実施し、長時間ならないように注意して、「参加して良かったと」思ってもらえることが必要だと思います。 そして、偏った参加メンバーにならないように配慮すべきです。
会社の広告塔としての役目を果たそう
役員は、動けば動くほど会社の広告塔となります。全社員はもとより、全お客様・全メーカー様・全仕入れ先様に対して、社の代表の代理の立場となります。会社の品格を落とさない身なり・言動、そして礼儀と教養を身に付けなければ、社員から見ても恥ずかしいでしょうし、外部から会社のレベルを図られます。常日頃の勉強と謙虚さを大事にして、それまで以上に気を抜かずに広告塔としての役目を果たすべきです。
以上、学校を卒業して社会人になり、会社人としての卒業までの思い出と体験と教訓を書いてきました。
どんな立場でも地道な努力と人との出会いを大事にする。そして人の道に外れない誠意ある生き方を続けていけば、きっと納得のいく社会人生活を全うできると思います。また、多くの出会いと人との付き合いが財産として継続されると思います。 目先に追われて人の道を外すと、振り返ったときに出会いの財産、思い出の財産を失っていると思います。
一日の稼働時間の中では、ビジネスに費やす時間が圧倒的に長いです。だからこそ、ビジネスでの生き方がそのまま人生の生き方に直結すると思います。「それは仕事の上だけの感性でしょ」は間違いです。仕事に対する姿勢は、その人の人生観に繋がっています。 お金ではない、肩書でもない、納得のいく社会人生活を多くの人に全うしてもらいたいと思います。
起業から会社人としての立場立場での体験談と思い出を書いてきた「営業スキルを磨く心得」は、今回の10回をもって最終回にしたいと思います。
最後に、新人から社会人卒業まで、数多くの体験と勉強をさせてもらい、人として育ててもらった会社に対し深く感謝したいと思います。
さて次回からどんなテーマで書くか、思案中です。