【コラム】 製造業の社長に伝えたい![2] 第3回
酒田 裕之( 生産管理コンシェルジュ )
2022年9月15日

生産管理システムを導入していても、工程管理を使っていない会社は非常に多いです。なぜ、工程管理を使っていない(使えていない)のでしょうか。
いくつか理由が考えられますので、見ていきましょう。

在庫管理を優先、そこで一息ついてしまってそのままに

製品や部品を繰返生産する製造業の場合、生産管理システムを導入する目的の第一に挙げられるのが「在庫の見える化」であり、「在庫削減」であることが多いのです。前回のコラムでも触れましたように、生産管理システムで在庫を精度よく見える化し、在庫削減を図るだけでも、大変な業務改善と標準化が必要です。
在庫管理ができるようになるだけでも多くの工数がかかるため、在庫がなんとか管理できるようになると、ここで一息ついてしまうということが、結構あります。

また、産業機械などを個別生産する製造業では、管理がしやすく、効果が出やすい部品調達や原価管理が優先され、工程管理への取り組みは一番最後になることが多いです。この業種の場合、設計変更に伴う工程の変更や手戻りなど、工程日程の引き直しも多いことから、別途プロジェクト型のスケジュールツールを検討することも多いです。
一方、小ロットの部品加工業では、工程管理が一番の課題となるのですが、ITリテラシーそのものが追い付いていないのが実情です。
ここからは、工程管理システムを使いこなすハードルが一番高い「生産用機械を利用して、繰返し部品や製品を生産する製造業」を例にして、工程管理を使っていない理由を考えていきたいと思います。

工程管理は属人的で、システムにすぐに乗せられない

工程管理はほぼ社内への指示、報告情報が前提となるため、業務の標準化、ルール化がされていないことが多く(属人的)、システムにすぐ乗せられないことが多いのです。

在庫管理でも、倉庫からの材料の出庫や完成報告(使用材料数や製品の完成数の報告)については、業務の標準化が必要です。しかし、仕入先からの材料入庫や得意先への製品の出庫などは、お金が絡むことから、仕入先からの納品書が送付されてきたり、得意先への納品書が発行されるため、それらのデータを入力データとして活用することができます。
一方、工程管理では、どの工程のどの機械でいつ作業をするのか、いわゆる工程への作業指示は、現場の判断にゆだねられていることが多いのです。これは、日々発生するイレギュラーな飛び込みの特急受注への対応や、段取り等の作業効率を考えて順番決めたりすることが、ベテランの現場の班長しかできないためです。
現場の班長は、経験をもとに非常に複雑な判断をしており、これらを紐解いて整理しないと生産管理システムには乗せることができません。

また、工程管理では、現場の作業終了報告が重要になります。ところが、現場の作業者は、指示された作業をするのは得意ですが、作業を開始した、作業を終了したという「報告する作業」は苦手であることが多いのです。なぜ、作業報告の必要があるのか、作業者に対して十分な説明と啓蒙が必要です。
このように、現場で行われている作業指示を生産管理システムで自動的に出力するための業務の標準化、データ整備や作業実績を正確にシステムに報告するための運用ルールの確立は、結構ハードルが高いのです。

製造部門をうまくリードできていない

導入の主体となる生産管理部門または管理部門が、作業現場(通常製造部門に所属することが多い)をうまくリードできていないということも考えられます。
生産管理システムを導入する場合、工場全体の生産を管理している生産管理部門または管理部門が主体となることが多く、工程管理の主体となる製造部門の関与が希薄であったり、表面的であったりして、工程管理業務の標準化、ルール化まで深堀りできないケースが多いのが実情です。

なぜ、そうなるのでしょうか。最初の理由でも触れたように、在庫管理が優先されて、全体最適でのシステム導入が先行で検討されるために、「現場がおいてきぼりになってしまう」ということが発生しています。
結果として、生産管理システムで作業指示書を発行しているケースでも、「日別品目別に何を作るべきか」、少し細かいところでも、「日別工程別に何を作るべきか」までの指示書しか発行されていないケースが多いのです。そのため、1日の中での作業順番や機械の指示は現場の差立てボードで管理したり、別Excelで管理したりと、今まで通りの手作業で行っていることが非常に多いのが実態です。

工程管理の実現には製造部門と一体となった取り組みが必要

こうして理由を見てくると、生産管理システムの一環として、実際に現場で使える(使ってもらえる)工程管理システムを実現するためには、製造部門(現場)と一体となった取り組みが必要だということがわかります。
製造部門の業務の棚卸しを行い、その手順、判断となるデータの整備をするという「標準化作業」は、現場に大変負担をかける作業です。また、稼働段階になれば、リアルタイムの実績報告する作業を、現場の物づくりの作業の一環として、根付かせなければなりません。
それゆえに、製造部門(現場)とのコンセンサス、協力体制を取りながら、生産管理システムの導入を進めてゆくことが、本当に重要となってくるのです。

これから、工程管理を本格的に活用していこうと計画している生産管理部、管理部の皆さんは、まず、製造部門の生の声をていねいに聴くところから開始していただきたいと思います。

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