【コラム】 製造業の社長に伝えたい![2] 第5回
酒田 裕之( 生産管理コンシェルジュ )
2022年11月15日
見える化したら、的確な評価をしましょう
前回のコラムで、原価の見える化のためにやるべき3つの見える化(労務費、材料費、外注費の見える化)についてお話ししました。この3つの見える化ができると、「原価の見える化」の環境が整います。
しかし、原価が明らかになっただけでは意味がありません。その原価が想定したものに対してどうだったのか評価することが重要です。高かった場合はなぜか、更なる原価低減のためには何をすればよいか、そこまで考えて改善策に着手しなければ、見える化の目的は達成されません。
では、原価をどのように評価したらいいのでしょうか。その評価ポイントについて見ていきましょう。
繰返し生産の製造業の場合
実際原価と標準原価を比較して評価する
同じ物を繰返し生産する製造業の場合は、実際に製造ロットごとに集計した実際原価と、品番別の標準原価を比較します。
一般的には、初期ロットから、製造を重ねるごとに、製造ロットごとの原価は低減してゆく傾向にあります。それは、経験を積み、作業改善をすることにより、工数が削減し、歩留まりが改善されるからです。
製造ロットごとのゆらぎを見る
ある一定の段階になると、原価は安定(つまり生産も安定)してきます。この段階になったら、製造ロットごとのゆらぎ(上下の変動)をみていきます。原価が多くなっている製造ロットがある場合は、どの費目が原価を増やしているのか確認します。
労務費が増えている場合
労務費が増えている場合は、工数がなぜ増えているのが、原因を追究して、更なる作業改善などの対策を打っていきます。
材料費が増えている場合
材料費が増えている場合は、まず、数量が増えているのか、単価が上がっているのかを確認します。
数量が増えているのであれば、なぜ、使用数が多く(つまり歩留まりが悪い)なってしまったのか、原因を追究します。
単価が上がっている場合は、なぜ単価が上がっているのか、購入ロットによるものなのか、単価変動によるものなのか、原因を特定し、対策を検討します。前者が原因の場合は、「購入ロットをまとめることで単価を下げる」、後者の単価変動が大きい材料が原因の場合は、「単価が安いときに、使用期限内で使う量をまとめ買いしておく」などの対策を打ちます。
個別生産の製造業の場合
実際原価と見積原価を比較して評価する
個別生産の製造業は、見積時に設定した見積原価をもとに実行予算を立てることが多いので、この実行予算と比較します。
繰返し生産の製造業と同じように、費目別に見ていきましょう。
材料費が増えている場合
個別生産の材料費が増加する理由として、よく発生するのが、欠品による緊急手配のケースです。
特に個別機械製造業の場合、製造ロットごとに手配する品目が非常に多くなるため、発注漏れが発生するリスクも高く、万が一発注漏れによる欠品が発生した場合、緊急手配することになります。
その場合はいつもより高くても買わざる負えない状況となります。このようなことが起こらないように、欠品をしない、または欠品をしてもすぐわかる対策が必要です。
外注費、労務費が増えている場合
外注費の増加については、仕様変更が大きな要因となってきます。
労務費については、新規設計部品が多い場合などは、組み立て工程時に、想定以上に手戻り作業が発生しているケースなどが考えられます。
リアルタイムに比較して、収益確保を
個別生産の製造業の場合、特に重要なのが、実際原価と見積原価の比較をできるだけリアルタイムに行うことです。なぜなら、繰返し生産するものと違い、次に挽回する機会がないため、製造ロット単位で収益を確保していく必要があるからです。
比較的製造期間が長いケースが多く、製造途中に仕様変更が発生することも多いため、見積もっていた原価より嵩んでしまうことも多いのです。ですから、常にリアルタイムに実際原価を把握しておくことが重要です。
そして、例えば仕様変更が発生し、その理由がお客様にある場合は、想定よりも増額した原価分を売価交渉する、また逆に、自社側に原因がある場合は、仕入先や外注先に単価減額の協力要請をお願いするなど、製造途中で収益を確保するためのアクションにつなげていきます。
「すべての作業が終了し、支払いも終わり、原価計算書が作成されてきたら赤字だった」というケースは、個別生産の企業に多いのです。原価計算書が死亡診断書にならないように、リアルタイムに原価を把握できる仕組みを構築しておきましょう。
原価を評価し、PDCAを回して収益改善につなげよう
ここまで、繰返し生産と個別生産の製造業の原価の評価ポイントについて見てきました。共通して言えることは、原価を見える化し、その結果を評価して改善策を考えるプロセスは、各種改善(作業改善、購買改善、設計改善など)につながる大切な収益改善活動だということです。
最近、経営トップより、原価低減に関する相談を受けることが多くなりました。そこで、製造原価報告書の原価費目率(各原価費目の発生額を売上と対比したもの)を利用した改善目標の設定方法について触れておきます。
改善目標を設定するときに、一つの指針となるのが、一般社団法人金融財政事情研究会より発行されている「業種別審査辞典」に掲載されている業種別売上原価内訳書の業界平均値です。
例えば、射出成形業であれば、売上原価80.2% 内、材料費35.4%、労務費15%、外注加工費8.5%等、業界の黒字企業の平均値が載っていますので、これを参考に目標値を設定することが可能です。
目標が決まったら、上述の各原価項目を評価し、問題があれば原因を追究し、課題を整理して、具体的対応策を決め、そして実行し、再評価するというPDCAを回していくのみです。
ぜひ、原価をしっかりと抑えて、筋肉質の会社を目指しましょう。