【コラム】 トップセールスが教える営業スキルの磨き方・育て方 第6回
広瀬 光哉(カクタル代表取締役社長・営業強化コンサルタント)
2023年2月1日

第4回では、Face to Faceでマネージメントができる管理職の心構え、第5回では、 部長・次長クラスになって一人一人の顔を直接見ない場合のマネージメントの心構えについて書いてきました。今回は経営に近い地位になったときの心構えについて書きたいと思います。

事業部長・部門長は、収益責任を第一に考えよう

経営に近い立場とは、一般的には、事業部長・部門長などの職責だと思います。この立場で一番必要になるのは、収益責任です。売上アップ以外に、原価低減・販管費圧縮からの営業利益アップも求められます。

収益伸長>売上伸長>経費伸長であれば、成長路線での戦略を立てて、攻めの運営を心がければよいと思います。その逆であれば、まずは経費を抑え、売上向上策を早急に立てなければなりません。

また安定的な収益を確保するには、保守・クラウドのような安定売上施策も必要だと思います。事業部・部門の予算を全うしていくのはもちろんですが、どうしたら収益(営業利益)をしっかりと安定的に伸ばしていけるかを常に考え、収益責任を強く意識すべきです。それが経営者に近い立場になったときの第一歩だと思います。

財務会計に強くなろう

経営に近い立場になったら、財務会計に強くなりましょう。
収益を稼ぐにしても、BS(貸借対照表)/PL(損益計算書)の考え方が必須です。 前職の時、経営者からは 「会計原則に則った経営をしろ、会計原則に則った経営をしていれば倒産しない」と教えられました。

会計原則を知るには、まずは任命された事業部・部門の試算表を月次で把握するべきです。また、様々な指標や、運営の進捗が見える数値を自分なりに加え、月次で伸長や進捗を追うべきです。
数字は嘘をつきません。長い期間で見ていくと必ず、成長期に手を打つべき施策が見えてきます。また、過去の成長期に手抜かりだった問題点にも気づかされます。
間違いを繰り返さないためにも、会計データを読み解く事は必要です。 どんぶり勘定などは皆無だと思いますが、事業部長・部門長の立場であれば、「会計データをもとに、様々な判断ができる」という自信は必要だと思います。バックデータがあれば、中長期戦略についても常に考えることができます。

皆が夢を持てるビジョンを、明確に示そう

しかし、数字ばかり訴えていると、部門・事業部に明るさと勢いをもたらすことはできません。どうすればよいでしょうか。私は、皆が夢を持てるビジョンを明確に示すことが必要だと思います。
それは、わかりやすく、誰もが納得するビジョンでなくてはなりません。 何百人・何千人の部下を引っ張っていく長の立場としては、みんなに夢と帰属意識を持って前進してもらう必要があります。ですから、「このビジョンを実現できれば、所属員がハッピーになる」という内容が必要です。
中長期戦略で、社内に目を向けた目標・ビジョンかも知れません。社外に向けた到達目標・ビジョンかも知れません。例えば、「社内でNo.1の収益部門になる」「ユーザー満足度No.1の部門になる」「どんな競合他社にも負けない商品を作る」などのスローガンの作成も重要です。現在であれば、「AIでもっと楽に…」「サイトでもっと楽に…」「ストックビジネスでもっと楽に…」などなど、時代にマッチした施策をどんどん出すべきです。

収益を担保したうえでの戦略発信なので、この立場にならないとビジョンの提示はできません。「立場に胡坐をかいていたらダメだ」と肝に銘じ、「毎年、毎年、会社と共に成長する組織になっていないと、事業部長・部門長としては失格だ」と自覚するべきです。

現場に行ける施策を考えよう

ここまでは少し固い事を書いてきました。ここからは、ソフトな事も書きたいと思います。

この立場になると、現場に行く機会が減ると思います。 ぜひ、現場が気を使わなくともいい施策を考えて、現場に行きましょう。

1.ユーザー訪問をしよう

一つ目の施策はユーザー訪問です。全国公平に、何か基準を作って、現場に気を使わせずにユーザーに訪問する仕組みを作りましょう。
売上額・受注額・保守額なのか、目的を明確にしたユーザー会を作って加入ユーザーを訪問するか、訪問する基準を決めましょう。
自らに課して「訪問する」と決めないと、日々の仕事に追われ、気づくと直接お客様の所に伺って生の声を聴く機会を失っています。
お客様の声は神の声です。フィルターを 通さずに直接ユーザーの声を聴く活動は、絶対無くさないようにしましょう。

2.社内現場訪問をしよう

二つ目の施策は社内現場訪問です。現場訪問も何らかの基準を作ることが必要です。この立場になって行き当たりばったりで行動すると、現場に多大な迷惑をかけてしまいます。
直接現場に行く基準や会食で現場メンバーを呼ぶ基準などを作り、自ら現場と会う機会を多く作るべきです。
お客様の声は神の声と同様に、現場の声には全てのヒントがあります。 これも、日々の仕事に追われると、行き当たりばったりの現場訪問や会食となってしまい、公平感が無くなります。現場から見ると、訪問・会食の基準がやる気に繋がると思います。

体は一つしかないので、全国行脚も大変です。だからこそ、トップは心身ともに健康であることが必須なのです。

自分は会社の広告塔だと自覚しよう

最後に、この立場になったら、自分は会社の広告塔なのだと自覚すべきです。
お客様、現場のメンバー、そしてメーカーさんと会う機会も多いでしょう。会社の広告塔なのですから、会社の品位と品格を傷つけてはいけません。また、組織のメンバーたちに恥をかかせてもいけません。常に見られている立場だと理解して、こんな立場になりたい、こんな会社と付き合いたい、こんな会社と取引したいと思われるよう、身だしなみや言動にも注意すべきです。

私は若い頃、ある役員が酔っぱらって電車の中で口を開けて寝ている姿を見て、すごくがっかりした経験があります。常に見られていると思うとなかなか気を抜けませんが、そのぶん高い給与をもらっているのですから、周りへの気遣い・気配りを求められるのは致し方ないことです。

以上、これまでのコラムで、学校を卒業して社会人になり、会社人として卒業するまでの思い出と体験、そこから得た教訓について書いてきました。

前にも書きましたが、どんな立場でも地道な努力と人との出会いを大事にする、そして人の道に外れない誠意ある生き方を続けていけば、きっと納得のいく社会人生活を全うできると思います。多くの出会いと人との信頼関係が、財産として蓄積されていきます。目先に追われて人の道を外すと、人生を振り返ったときに、出会いの財産、思い出の財産を失っていることに気づくと思います。
一日の稼働時間の中では、ビジネスに費やす時間が圧倒的に長いです。 だからこそ、ビジネスでの生き方がそのまま人生の生き方に直結します。「それは仕事の上だけの感性でしょ」と考えるのは間違いです。仕事に対する姿勢は、その人の人生観に繋がっています。 お金ではない、肩書でもない、納得のいく社会人生活を多くの人に全うしてもらいたいと思います。

最後に、新人から社会人卒業まで、数多くの体験と勉強をさせてもらい、 人として育ててもらった前職の会社に対して深く感謝したいと思います。

久しぶりに出張があり、車窓からの美しい富士山に見惚れました。コロナを乗り越えて、新幹線もビジネスマン達で満席です。