【コラム】三月ウサギのDX談義 第5回
2024年5月27日
近すぎて、あまり聞かなくなった「2025年の崖」
ゴールデンウィークにリフレッシュした三月ウサギは、「さあ仕事だ!」と張り切っていますが、バラの季節なので、あちこちのバラも眺めに行きたいと思っています。
さて、そんな中で私が思い出したのが「2025年の崖」という言葉です。4、5年間に私がIT関連会社のカタログを作っていた時に話題になっていたのがこの言葉でした。しかし、2025年が1年後に迫った現在は、あまり聞かなくなったような気がします。今から「問題だ!」と言っているようでは遅いので、それぞれに対策が進んでいるということでしょうね。
私たちは崖をどこで見ているのか?
当時、この「2025年の崖」の説明についている絵には2種類ありました。「壁」には「障壁、障害物」という意味もあるので、壁よりも大きな障害物という意味で、目の前に立ちはだかっている断崖を見上げている人間の図。もう一つは、足元の地面が深く割れて崖になり、向こう側には行けずに困っている人間の図。
切り立つ崖を登るのか、深い穴の上を渡る橋をかけるのか、どちらが簡単なのか? この絵をつけた商品やシステムはどういう解決策を提案しているのだろうか? と絵を見ながら考えたのを覚えています。
「2025年の崖」が注目されたのはいつ?
そもそも、「2025年の崖」という言葉が注目されるようになったのはいつでしょうか?
ネットで調べてみると、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」に「DX」と「2025年の崖」という言葉が登場したのがきっかけのようです。このレポートでは、「企業の競争力強化にはDXの推進が必要である。しかし、DX化の実現は容易ではない。DX化が推進されないと、今後大きな経済的損失が生じる」と言い、「日本の経済損失は2025年以降、年間最大12兆円に上る」と試算して、日本経済の弱体化を危惧しています。
「2025年の崖」が、この巨大な経済損失をイメージしているとすれば、私たちは崖の上に立ち、急激に落ち込む経済の下降曲線を見下ろしていることになります。
「2025年の崖」の最大の要因はシステムの老朽化
「2025年の崖」の最大の要因は、基幹システムとITインフラの老朽化だと言われています。古いシステムは過去の技術と仕組みで作られているので、最新技術を適用しにくく、競争についていけなくなります。また、古いシステムやソフトウェアのサポート終了というリスクもあります。そこで、ここ数年の間に新システムへの移行を図った企業も多かったのではないでしょうか。
私が広告の仕事をしている大手スーパーマーケットグループも、まる1年かけて新システムを構築し、旧システムから新システムへの移行を行いました。担当者は「切り替えから2日間は、うまくいくかどうか心配で生きた心地がしなかった」と言っていました。
最近ネットでは、大手食品メーカーが4月に切り替えた新基幹システムの障害によってチルド商品の出荷が停止され、「プッチンプリンがスーパーから消えた」と話題になっていました。しかし、こういう危険があっても、成長をめざす企業はこの崖を克服する方法を考えなくてはなりませんね。
超高齢化による「2025年問題」も重なる
「2025年の崖」という言葉とは別に、「2025年問題」という言葉もあります。これは、医療費や介護費の増加、社会保険料増加で労働者の負担増加など、超高齢社会の社会問題を指します。2025年にベビーブーム世代が75歳以上になり、日本の後期高齢者の人口が約2,180万人に達することから、「2025年」がクローズアップされています。
「2025年の崖」と重なっている問題は、高齢化によるIT人材の減少です。具体的には、老朽化したシステムについてよく知っている年配のITエンジニアが高齢で引退してしまうこと、古いシステムを運用したり、保守を担当できるIT人材が減少してしまったりすることが心配されています。
視点がどこにあっても、早めの対策が必要
社内のDX化、基幹システムの刷新、社内IT人材の確保など、一つ一つの問題を解決して「崖」の頂上を目指すとすれば、私たちは崖の下にいることになります。目の前の断崖絶壁に「解決策」というハーケンを打ち込み、それを足場に上へ上へと登る努力をしている、というイメージでしょうか。別の部隊は、より楽に頂上に到達する登山ルートを捜しているところかもしれません。
上を見て頂上超えを目指すか、奈落の底を見て落ちないように橋をかけるか、視点は色々と考えられますが、「前に進みたいのならば、立ち止まってはいられない」ということだけは確かなようです。
これから1、2年、この崖を克服するための試みがうまくいかない例がいくつも出てくるかもしれません。私はそれを、高みを目指すチャレンジの結果と捉えて、応援したいと思います。