【コラム】三月ウサギのDX談義 第7回
2024年9月17日
セルフレジの利点は「省力化」による人手不足解消
日本のスーパーマーケットやコンビニエンスストアで、セルフレジの導入が進んでいます。三月ウサギは人間との接触が好きなので、極力セルフレジは避けているのですが、スーパーでもコンビニでも有人レジの数が減っているので、この好みを貫くのは難しくなっています。
セルフレジのシステムもいろいろで、「商品の打ち込みは従業員がやり、現金、クレジットカードでの入金手続きはお客が機械を使ってやる」というシステムと、「商品のバーコードを機械に当てて入力するところから、支払いの最後までをお客がやる」というシステムがあります。さらに、それらのシステムが混在し、「お客が好みによってどちらを使うか選ぶ」という店も多いようです。
今のところ、有人レジに並ぶ人も一定数いますが、三月ウサギは「このままセルフレジがどんどん増えていきそう」と感じています。どの業界も「DXを駆使して人手不足対策をし、人件費を抑制したい」考えているわけで、これは小売業も同様でしょう。省力化のためのDXである「オペレーションDX」に力を入れた結果がセルフレジの導入なので、お客が使い方に慣れ、 顧客自身がレジ係になって決済までやってくれれば、店にとってはありがたいはずです。
セルフレジは2000年代に普及、コロナ禍で定着
こんなふうに見慣れてきたセルフレジですが、そもそも日本で使われるようになったのはいつ頃からなのでしょうか。ちょっとネットで調べてみると、日本にセルフレジが普及したのは2000年代だそうです。
初期費用がかかり、お客に使い方を教える、不正を働かないように目を光らせるなどの従業員教育も必要なため、最初は大手企業に限られた取り組みだったと思いますが、「将来の労働人口減少に対応するためには、このDXは不可欠」ということで、セルフレジの導入に取り組む企業が増えてきました。
そして、普及を後押ししたのが、新型コロナの流行でした。「感染防止策として人との接触を避けるべき」という風潮から、非対面、非接触が歓迎され、それまでキャッシュレス決済とセルフレジを敬遠していた買い物客も、これらを受け入れるようになりました。
ところが、欧米でセルフレジ撤去の動きが
ところが、別の動きもあります。最近読んだニュース記事では、ここに来て、欧米で「セルフレジ撤去」の動きが進んでいるそうです。
英国のスーパーマーケットチェーンBoothsは、大部分の店舗のセルフレジをやめて有人レジに戻したそうです。その理由は「セルフレジは自分でやるので時間がかかる、信頼できない、冷たい感じがする」と顧客に評判が悪かったから。
Boothsは高級スーパーマーケットチェーンなので、客単価も高く、セルフレジ導入でお客が離れていってしまうよりも、人間の従業員が顧客と会話して対応をする方が収益増加につながると考えたようです。
もう一つ、北米のディスカウントチェーンストアDollar Generalも1万店以上の店舗のセルフレジを撤去しました。こちらはセルフレジにしたら売り上げが下がったことが撤去の理由のようです。
セルフレジは「客離れ」と「買い控え」を起こすのか?
三月ウサギの友人のマーケティングの専門家は、セルフレジは「客離れ」と「買い控え」を起こしやすいと言います。
機械の操作に慣れている人は「セルフレジは人と接触しなくていい」「自分でやる方が早くていい」と言います。しかし、機械が苦手な人は、「ちゃんと決済できているかどうか不安」「後ろに並んでいる人を待たせるのがプレッシャー」など、様々な理由でセルフレジを嫌います。
そして、「人の温かみが欲しい」「従業員とちょっとした会話がしたい」という人は近所の小売店や有人レジの店に流れていってしまうのではないでしょうか。三月ウサギも、昔ながらの地域の商店に行き、馴染みの店主と話をしながら、現金を払って買い物をすることが多くなりました。ただし、こうした商店もどんどん減っていますが。
「セルフレジに並ぶ人の購買点数は、有人レジに並ぶ人の購買点数より少ない」というデータもあるそうです。これは感覚的に理解できます。
カゴいっぱいに買ったら、自分で決済するのは時間がかかるし、後ろの人を待たせるから、有人レジで店の人に打ち込んでもらおうと思います。同じことを考える人が多いようで、有人レジに並ぶ人は買い物の点数が多く、列の待ち時間も長くなります。
買った品数が少なければセルフレジに並ぼうと思います。こちらも、同じ思いの人が多いようで、セルフレジに長蛇の列ができていても、レジの台数の多さとお客が買う品数の少なさで、早く順番が回ってきます。
つまり、買い物をする時点で「セルフレジに並ぶから必要なものだけ買おう」と考えて余計なものは買わなくなり、「売り上げが落ちる」という結果になるのでしょう。
もう一つの問題は、客の不正と従業員の精神的負担
セルフレジのもう一つの問題が、「客の不正にどう対処するか」ということです。
セルフレジの性質上、「買った品物のバーコードを打ち込まない」などの万引き行為や、最後のクレジット支払いをせずに商品を持ち逃げしてしまうなどの行為がやりやすく、防止のためには従業員が目を光らせている必要があります。さらに、怪しいと思ったら声がけをする必要があり、場合によっては客との口論に発展することもあるでしょう。
ここで難しいのが、不正行為と操作ミスの区別です。機械の操作に慣れていない顧客の場合、単なる打ち込みミスの場合もあり、客とのトラブルの危険やその後の客離れの危険もあります。
このように、万引きの増加と、万引き対策を担う従業員の精神的負担は、セルフレジ導入の障壁となっています。
セルフレジ普及の努力は続く
それでも、「省力化の必要性」を認識している企業は多く、セルフレジの様々な問題を乗り越えるために工夫を凝らしています。
「時間がかかる」という問題については、買い物カートにタブレット端末とバーコードリーダーを乗せて、「カートで買い物しながら打ち込みを済ませる」というシステムを採用しているスーパーもあります。
「後ろで待っている人がプレッシャー」という声に対しては、セルフレジコーナーの中に「ゆっくりレジ」のレーンを作り、そこでゆっくり打ち込みをしてもらう、バーコードリーダーを使いたがる子供にも使ってもらって、家族で楽しく買い物をしてもらう、などの工夫をしているところもあります。
このように、顧客の利便性を考える方法は、いろいろと考えられると思いますが、難しいのは不正防止策です。こちらは「顧客を犯罪者と考える」という視点で、犯罪ができる可能性をつぶしていかなくてはいけません。今のところ「セルフレジを監視する従業員を増やす」「監視カメラの数を増やす」くらいしか手がないように思いますが、それでも有人レジよりは省力化になるでしょう。
今後、何か画期的な不正防止策が生まれるか、それとも「レジはやっぱり人間がいい、省力化は別のところでやって」という顧客の声が大きくなってセルフレジが衰退するか、しばらく観察してみたいと思います。